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静岡ろう学校の第一歩を踏んだのは就学一年前でした。幼稚部に通うこともできないため、週一回の「教育相談」に通うことになり、当時、小倉先生が熱心にご指導して下さいました。毎週土曜日に親子で学校へ行って指導を受け、次の土曜日まで私が先生代わりとなって家で勉強しました。
一年間の教育相談を終えて就学時期になりましたが、やはり家が遠隔地で通学には二時間余りかかり、とても通学は不可能です。この耳の聞こえない幼な子を寄宿舎に入れるなど、到底考えられないことでした。でも家に置いたのでは、この子のためにならない。「このときこそ心を鬼にして寄宿舎へ入れてもらう」と決心しました。
そして入学式の日、受け持ちの先生から一人一人名前を呼ばれ、娘だけが、「ハイ」と言う返事ができたのです。この嬉しかったこと、受け持ちの先生が大変に褒めて下さったことは今でも忘れません。
これも、一年間の教育相談の成果と小倉先生に感謝しております。いよいよ寄宿舎生活が始まりました。毎週土曜日に迎えに行き、日曜日は親子で宿題などを一生懸命にやり、月曜日に学校まで送って行くという生活です。
でも、土曜日に迎えに行くときはよいけれど、月曜日に寄宿舎へお願いして帰るとき、娘は私のスーツの裾を持っていて離しません。何とかチャンスを見つけては帰って来たものです。でも、一人バスに乗っても、自然と涙が出て来て娘の顔だけが頭の中を駆けめぐっているのです。「ああ、いっそ連れてくればよかった」と、何度思ったことでしょう。やはり、子供のため

 

 

 

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